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小さくても最高難易度の鉄鋳物
『鉄のことり』開発秘話 ~ 職人インタビュー

2025.08.20 コラム
小さくても最高難易度の鉄鋳物<br>『鉄のことり』開発秘話 ~ 職人インタビュー

前回は、鉄のことりの製造工場である岩手製鉄さんの工場見学の様子を紹介しました。

手のひらにすっぽりと収まる小さな鉄のことりからは想像がつかないような大きなクレーンやリフト、機械設備がひしめき合う工場内。火花散る灼熱の溶解炉からは煮え立つ溶湯(高温で溶けた鉄)が、まるで溶岩のように流れ出すさまは大迫力でした!

そんな過酷で危険な環境下、溶湯が固まりはじめる前に、手際よく正確に鋳型に流し込みを行う職人さんの技術も圧巻!

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鉄鋳物の設計から鋳込み、仕上げまでワンストップで生産、高品質な製品を送り出している鉄のプロフェッショナル集団ですが、その経験と技術をもってしても、鉄のことりの設計と生産は大変な苦労があったそう。

そこで今回は、設計と製造をご担当いただいている職人さんに実際の製造現場での苦労話を伺いました。

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《製造責任者の取締役部長 姿(すがた)拓哉さん》

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《設計・開発担当の副主任 菅野 裕輝さん》

伝統の鉄器文化に磨きをかけ、進化・発展してきた岩手製鉄

オークス:本日はお忙しいところ、ありがとうございます! まずは御社の事業内容や歴史、企業理念についてお聞かせください。

姿さん:ここ北上市は古くから南部地方と呼ばれ、鉄や砂などの鋳物資源に恵まれ交通の便も良かったことから、農業の閑散期に副業として鋳物業が発展してきたと聞いています。当社は昭和24年に製鉄業からスタートした会社で創業76年、現在は鉄の鋳造業を生業としています。工場の従業員は約70人おりまして、主に産業機械用の鋳造部品を製造しています。企業理念としては、ものづくりを通じて社会貢献ができる会社を目指しています。技術と品質を第一に生産活動をしている会社です。

オークス:姿さんと菅野さんの具体的なお仕事内容をお聞かせください。

姿さん:鋳物事業部の責任者を務めさせていただいてます。日々の業務内容としては会社の営業活動や工場全般の管理となります。

菅野さん:マシニングセンタを使用しての金型加工や機械加工が主な業務となります。鋳造部門で製造されている部品の不良率の低減など、生産のバックアップにも携わっています。

オークス:鉄のエキスパートである御社の得意とする製造技術や加工技術がありましたら、お聞かせください。

姿さん:最先端の3D機器を使った製造を得意としています。例えば、曲面が多かったり、形状が捉えにくい複雑な品物を作ることを得意としています。

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《製作された鉄のことりの金型は3Dスキャナーで精密に計測され、設計時の品質を担保》

オークス:今回、鉄のことりの設計、生産をお引き受けいただけることになった理由は何だったのでしょうか?

姿さん:当初、オークスさんから商品開発のコンセプトとして、ぬか床(ぬかどこボックス)に入れて、鉄分を溶出させての効果ですね。昔からぬか床に釘を入れたりする方法はありますが、もっと手軽にできる商品を作りたいとの言葉に共感しました。そこに我々の持っている技術をどう活かすか? このアイテムは裏側を大きくえぐったり、細かな羽のディティールで表面積を増やし、より鉄の溶出量を増やしています。さらに鍋のフチにかけれたり、実際に使う方の使い勝手の良さに配慮して複雑なデザインになっています。製作させていただいている中でスキルアップも沢山経験できましたし、非常に良い商品開発の機会をいただけたと思ってます。

困難を極めた鉄のことりの金型設計

オークス:鉄のことりの設計や生産で難しいところはあったでしょうか?

菅野さん:少し恥ずかしい話ですが、全部でした(笑)。 まず小鳥のデザインやフォルムを3次元CADデータで作成するのですが、このサイズ感と細かなディティール、Leye(レイエ)のロゴにいたるまで苦戦しました。3Dプリンターでの試作を何度も何度も繰り返してデザインの調整を続けましたね。

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菅野さん:デザインが固まったら、次はことりを鋳物で製造するための金型が必要になります。まず1個取りのコマを作っては鋳込みをして、鋳物のことり(完成品)を確認。この金型だけで4回も製作しました。

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《上段:1個取りの金型、下段:この金型で鋳込みした鉄のことり》

菅野さん:1羽のことりが完成したら、複数取りの量産用金型の製作ですが、これは1個取りを並べただけの金型ではありません。溶湯を鋳型に流し込むと凝固や収縮が始まり、空洞や亀裂が生ずることがあります。このような欠陥が生じないように湯道や経路を設計しなければなりません。また、無駄な材料を減らして低コストで量産できることも検討します。

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《8列×4行のことりが並ぶ32個取りの量産金型の3次元CAD》

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《専用のソフトウェアを使い、溶湯の流れをシミュレーション》

菅野さん:鋳込み時をシミュレーションして設計、精度とスピードを上げていますが、実際の金型は修正が何度も必要になり、工具が折れてしまうこともありました。一度に32個作れる量産金型ができても、実際に鋳込みを行うといくつも不良品が生じ、全て良品にするのが難しかったのですが、製造部門の協力もあり金型修正と鋳込みを繰り返して完成させることができました。ここまで細かいディティールがあるものを一つの型から32個も取り出すのは経験がなく、今までよりも1ランクも2ランクも上のものに今回はトライしたかたちです。

姿さん:まだまだ製造を始めて間もないこともありまして、技術も開発途中と言えるかもしれません。一般的な工業製品で鋳造品の不良率は3%だと良い方と言われますが、このことりは5~10%。これからますます技術を進化させていって、不良率を下げていくことを目標としています。

菅野さん:一回目で不良率を3~5%にできなかったことが残念、心残りなところはありますね。

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《生産後のメンテナンスはもちろん、改良が続けられる金型》

モノづくりと鉄の魅力

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オークス:鉄製品のメリット、鉄の魅力についても語っていただけますか?

姿さん:鉄を溶かす温度が1500℃くらいなんですが、日常では味わうことのない高温です。真っ赤に溶けた鉄を砂型に流し込んで造る。男の職業と言いますか(笑)。モノづくりのロマンが鉄にはあるなと思っています。今後弊社が志しているところとしては、弱点である重さを克服した鉄の使い方です。それには出来るだけ薄肉で鉄の鋳造品を作る必要がありますし、ノウハウが必要になります。当社では溶湯の成分から鋳型の湯道や経路の設計に至るまで、日々研究をしているところです。

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《より深くえぐった形状にすることで薄肉化し、サイズを変えずに軽量化と表面積アップを両立》

菅野さん:鉄は非常に自由度の高い素材ですし、鋳造と呼ばれる製造方法とのシナジー(相乗効果)というか、相性の良さにも非常に魅力を感じています。溶けた鉄を砂型に流し込んで作る工業製品ということで、原始的、時代遅れ的な印象を持たれる方も中にはいらっしゃるかもしれません。ですが決してそんなことはなく、鉄と言っても色々な種類がありますし、少しの添加剤で機械的にも製造的にも、見た目も大きく変化します。(鉄のことりを手にしながら)こんな小さくて複雑な形状のものを一つの砂型で沢山作れる一方で、数十トン数百トンの一点ものまで自由自在に製造できる(※岩手製鉄さんでは重さ10トン、長さ4メートルの大きさまで製造可能)。やればやるほど良くなってポテンシャルを発揮できる、やりがいの大きい仕事だと思ってます! 鉄はコストも安い上にリサイクル性も高く、身近なものですが可能性を感じられる素材としても大いに魅力を感じます。

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さいごに

オークス:最後に「鉄のことり」について、それぞれ一言お願いします!

姿さん:今回のお話をいただいてから四苦八苦しながらやってきましたが、改めて良いお話をいただけたと思っています。特に開発工程において苦労しましたが、今まで我々が手掛けてきた中では難易度が高かった。例えば、最初は羽の部分はディティールが無かったのですが、鉄の溶出量を増やすために「羽を付けましょう!」とオークスさんから提案があり、私は「分かりました!」と。(隣の菅野さんを見ながら)技術担当者に依頼したわけですが、拒絶反応(笑)。「そんなの本当にできるんですか?!」と。そう言いつつも持っている力を発揮して、最後には満足いくカタチにしてくれたな、という感触です。あと鉄ならではのリサイクル性ですが、鋳込みの後の不要なゲートや成型不良となってしまった鉄のことりは100%リサイクルしています。

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《羽のディティールに加え、より取り出しやすいように穴の追加と形状変更》

菅野さん:岩手製鉄の技術や努力を結集させた商品が出来たと自負しています。これを多くの方に手に取っていただいて、知ってもらって、"ことり"いわく世界に羽ばたいていったら良いな!と思うのでよろしくお願いします(笑)。

オークス:末永く使えそうなアイテムですが、従来の鉄玉子は真っ赤にサビさせてしまう方もいます。例えば、今後のサービス展開として、オークスで回収、まとめてリサイクルのお願いをして、新しいことりに生まれ変わらせることはできますか?

姿さん:もちろんです! 表面の不純物やサビを落として再度溶かし、砂型に流し込めば新たなことりが生まれます。100%リサイクルが可能ですし、協力できます。

オークス:嬉しいお言葉です! 私も一生モノの鉄のことりを使い続けます。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました!

姿さん・菅野さん:ありがとうございました。

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