コラム2019年07月29日
女性開発者奮闘!史上初!消防士の手袋素材で作った超耐熱調理ミトン
熱い!大きすぎ!すぐにボロボロに...
あっという間に高温になり色々な料理を手軽に作れる魚焼きグリル調理が人気。オークスの女性開発チームleye(レイエ)はそんなグリル調理グッズ開発のパイオニア。シリーズ累計41万個。ヒット商品を連発してきた。
ところが、グッズを使っていると高温でミトンがすぐにボロボロになり、穴が開いてしまう。熱い。危険。耐熱ミトンを色々と試してみたものの、どれもすぐボロボロに‥。頻繁に買い替えるのはお金のムダ。大きさや使い勝手の不満もある‥。
そうだ!消防士の手袋メーカーさんに最強のミトンを作ってもらおう!
「安全で使いやすいミトンが欲しい!」「レイエファンの方、魚焼きグリル調理をしている人が安心して使えるミトンを作りたい!」そんな想いがふつふつと沸いてくる。しかし、300℃以上の超高温になる魚焼きグリル。断熱の知識や素材、開発経験はない。いつもお世話になっている地元メーカーでも聞いたことがない。
自社で作るより「消防士の手袋メーカーとコラボ」したほうが熱に強く使いやすいミトンが作れると思った。
消防団の知人がおり、訓練に使う手袋はメーカー指定されていると聞いていた。早速、指定メーカーの株式会社トンボの消防用グローブをネット通販で買ってみた。
ところが、(調理用ではないから?)熱かった!(汗)
でも燃えたり、穴が開いたりする気配はない!
この素材と断熱を工夫すれば、いけるんじゃないか!?
勇気を出して、トンボさんに相談してみよう!
開発なんと2年!悪戦苦闘!最強ミトンの誕生まで
トンボさんとはツテがない。ホームぺージの「問い合わせフォーム」からコラボ開発依頼した。「(冷やかし、一発屋ではありません!)女性に共感されるキッチンツールをたくさん作ってきました!ブランドとして大切に育ててきました。今度は女性が使いやすい安全で熱くないミトンを作りたい。一緒につくってほしい!」そんな想いを丁寧に伝えたつもり。(メーカー担当者(トンボ中藤専務)は突然、遠く離れた新潟の小娘から「調理ミトンを作ってくれ!」と言われ、たいそう怪しんだに違いない(笑))
「薄くて断熱力のある素材はないでしょうか?」の問いに、「断熱力は結局空気層。厚ければ厚いほど断熱性がある。」とのこと。自分で素材を買い集め、「ミトンのようなもの(笑)」を縫っては耐熱実験を繰り返し、資料を作り、見ていただいた。こちらの想いが伝わり、トンボさんとのコラボ開発が始まった。
魚焼きグリルの高温に耐えられるのはもちろんだが、一般的なミトンは(女性が使うには)他にも色々と不満があった。
・女性の手には大きすぎる。
・ミトンの先端が余ってしまうので、食材に触れることがある。不衛生。
・手にフィットしない、手の動きについてこないので掴みにくく危険。
・耐熱性をうたうミトンは、さらに大きく、厚い。ゴワゴワする。
トンボさん提案内容でミトンを試作してもらう。消防用手袋同様に手のひら側が牛皮。4層構造。皮は耐熱性が高いが、グリルの超高温には耐えられず収縮、変形してしまった。
今度は消防用グローブの表面(手の甲側)に使っている「ケブラー®&ノーメックス®Wニット」(※)を提案してもらい試作。親指形状変更とステッチをセンター(中指と薬指の間)にして左右どちらの手でも使えるようになった。4層構造。穴が開いたり焦げたりすることはなくなったが、まだまだ熱い。使い続けると若干の変色も。
トンボさんから生地材料を送ってもらい、様々な組み合わせ、重ねる順番や枚数を試した。ただ厚くすればよいのではないことに気づく。グッと柄を握ったときに生地が潰れたり、へたったりすると熱が伝わってしまう。生地枚数は5層が必要と結論。
手ごたえを感じた手作り試作をを元にトンボさんに再度試作してもらう。300℃に熱せられたスキレットを握り続けても、ほんのりと温かいだけ!十分な耐熱性を達成した。しかしゴワゴワして握りが固く、使いにくい。
試作を繰り返すが、固さが改善されない。「ミトン沼」にどっぷりはまってしまった。。熱による変色問題はオレンジ染色に変更することでクリア。
ついに解決法に気付く!今までは、全ての素材をまとめて縫って、ひっくり返して表を出していた製法。そこで外カバーを別パーツにし、中の断熱材を縫ったらそのまま返さず外カバーに入れる二重構造に変更してもらう。つっぱったりゴワついたりせず、柔らかい握り心地になった。
もうひと頑張り「女性にとっての使いやすさ」を追及、微調整し完成度を高めた。2年の歳月をかけた「最強の調理ミトン」が完成した。
耐熱330℃!断熱力2~3倍!消防士の手袋に使われるプロ素材ミトン!
素材、厚さ、重ねる順番まで試作とテストを繰り返し、導き出した5層構造。もっとも高温にさらされる第一層(手の平部分)は消防士やレスキュー隊の手袋素材として使われるケブラー®&ノーメックス®のWニット。熱による焼け焦げや穴あきを防ぎます。
第2~5層で、握り心地や使い心地に配慮しつつも、しっかり熱をさえぎります。一般的なミトンの3倍、耐熱ミトンとの比較でも2倍の断熱力を誇ります。オーブン料理はもちろん、300℃以上になる魚焼きグリル調理でも安心です。
魚焼きグリルで約300℃に熱せられたスキレットをつかむ実験。本製品(右)はつかんだ状態キープでもほんのり温かくなる程度。一般的なミトン(左)は一瞬で持っていられないほど熱くなり穴が空いてしまいました。
ひみつはセンターステッチ! つかみやすく、女性の手にフィットする可愛いミトン
従来のミトンは女性の手には大きく、使いにくいものがほとんど。そして耐熱性にこだわるほど生地や素材の厚みは増し、大きく、つかみにくいミトンに。
本製品は「センターステッチ」で問題をクリア。中指と人差し指の間にステッチを入れて使うことで、ミトンの中で指先がズレたりせず、手の動きにフィット!しっかりつかめるから安心感があります。女性の手にフィットするサイズ感。スリムな親指は食材に触れにくく、左右どちらの手でも使えるユニバーサルデザイン。 製造メーカー紹介災害救助の現場を支える企画力と高品質を誇る生産工場
株式会社トンボは災害救助活動用手袋の国内シェア約4割を誇り、日本全国の消防署はもちろん、警察署、自衛隊、官公庁に25年に渡る納入実績があります。現場の意見を取り入れ、機能性を重視した企画力と製品づくりはプロからの絶大な支持を受けています。ベトナムに自社工場を建設、一貫生産を行うことで高い品質を維持しています。
製造メーカーインタビュー
◆株式会社トンボ 専務取締役 中藤 和信氏
- 御社の事業内容についてお聞かせください。
- 1985年創業です。溶接等の皮革の作業用手袋からスタートしました。
プロのバイクチームにレーシングスーツを供給していたこともあります。
当初は順調でしたが、輸入の安い商品がどんどん流通を始め、競争が厳しくなってきました。そんな時、製造委託工場の社長さんから「消防用の皮手袋の需要があるから、やってみないか?」と。手探りながらも作ってみて、最初は消防士さん個人向けの通信販売だったんですけど、これが売れた。
手ごたえを感じたので、パンフレットを作って全国の消防や官公庁に送ったら問い合わせが沢山きました。隊員さんの口コミもあり、災害救助の現場に広がり、官公庁に繰り返し納入できるほど成長しました。今では消防、救助、各種隊員用グローブのトップブランドとして認められています。
- ゼロから始めて業界シェア約4割とのことですが、トップシェアを獲得できた理由は?
- 品質とコストのバランスの高さではないでしょうか。
少量多品種にも柔軟にスピーディーに対応できるのも弊社の強みです。
消防って、「この部分の皮をもう少し厚くしてほしい!」とか、細かい特注の依頼もよくあるんですよ。
現場の隊員さんの声に応え、絶えず改良を繰り返してきました。
- 今まで調理用の手袋を作ったことはありますか?
- 調理用のミトンはありません(笑)
消防用グローブを作っている実績やイメージから「超耐熱アイテム」の製作の問い合わせはあります。なので小坂井さん(オークス開発担当)から「超耐熱のミトンを作りたい」という問い合わせには案外と違和感は感じなかったですね。
- 『グッとつかめる耐熱ミトン』ですが、普段作っている消防用グローブとの違いは?
設計で苦労した点、製造が難しいところはありますか? - 先ほどもありましたが、「熱くならない○○を作ってください!」という依頼には、いつもこう答えてます。「燃えないけど、熱いですよ。。」と。
消防用グローブにはケブラー®&ノーメックス®のWニットを使いますが、強度、耐熱、難燃性に極めて優れた素材です。引っ張っても鋭利なものでも裂けず、燃えにくく、穴が開くことも稀ですが、断熱性はないのです。
求められるのは、より高強度、高弾性、耐切創性なのです。
断熱性を高めるには空気層を厚くするしかなく、どうしても分厚く、固く、握り心地が悪くなる。ここからは理屈ではなく、試作と検証を繰り返すしかない。
弊社は試作もベトナム工場で行っているのですが、「いったい何個作らせれば気が済むんだ!」と工場担当者が根を上げそうになり、悩みました(笑) 開発には前例ない時間が掛かり大変に苦労しましたが、製造はノウハウがありますので量産で難しいところはありません。
- 品質についてのこだわり、取組みはありますか?
- 東日本大震災時には救助用グローブを提供、支援させていただきました。
隊員の皆様から感謝していただき、東京消防庁より感謝状と額をいただきました。
余談ですが、映画「海猿」にも使われていますよ(笑)
品質に関しては、ベトナム自社工場による一貫生産、徹底した全数検査。
弊社のグローブはすべて手縫いですが、針が折れてしまった場合は、欠片すべてを探し提出を義務付けています。
検針はもちろんですが、針を混入させない仕組みを徹底しています。
開発担当者より一言
私自身が、ミトンをすぐにボロボロにしてしまい、より耐熱性のありそうなミトンを買い換えるという「ミトン難民」になっていました。「自分がこんなに困っているなら、他の方々も困っているのでは?? だったら作ろう!」という想いから作りました。
また、市販のミトンは誰でも使えるように大きめになっているのが一般的ですが、大きすぎて、使いにくい。
「そんなに大きくなくていい!」
このミトンは、女性が普段感じているミトンへの不満を解決しようと、消防士の手袋メーカーである(株)トンボさんに何度も何度も試作していただいたものです。
安全性と使いやすさを真剣に考えたミトンをたくさんの方に使っていただけたら嬉しいです。