手指にハンディキャップがある方に知ってほしい、料理の工夫

手指にハンディキャップがある方に知ってほしい、料理の工夫

料理に必要な手の動きが制限される麻痺などの障害は、脳卒中などいろいろな原因で生じ得ます。そこで今回、手にハンディキャップがある方が料理を長く続けるための工夫やおすすめの道具、注意点などについて、作業療法士で大阪公立大学教授の竹林崇先生にお話をうかがいました。

包丁で食材を切る様子

一番の問題点は「固定ができない」こと

料理の動作で基本となるのは、片手で食材や調理器具を固定し、もう片方の手で切る・炒めるなどの操作を行うことです。手指にハンディキャップがある人が料理をするうえで一番問題になるのが、この「固定」と調理器具等の「操作」ができなかったり難しくなったりする点です。たとえば食材を固定できなければ、切ろうとしても転がってしまいますし、フライパンを固定できなければ、炒めるときにフライパンがグラグラ動いてしまいます。

手指の障害にはいろいろなケースがあります。脳卒中や骨折などで片手が使えなくなってしまう場合、神経障害や脊髄損傷で手が動きにくくなってしまう場合、リウマチなどで指が変形したり力が入らなくなってしまう場合など、いずれも料理で「固定」や「操作」するのが難しくなります。

手指障害の方が料理をするときのポイントは?

手指にハンディキャップがある方が料理をするときに気を付けていただきたいのは、まずけがをしないことです。安全にかつできるだけストレスがないように料理をするには、便利な道具をうまく使うことがポイントです。

たとえば、釘付きのまな板を使うと、食材を刺して固定することができますし、濡れ布巾を食材の側面を覆うように巻くだけでも重さで動きにくくなります。パッケージを開けるときなどに使うハサミも、指をわざわざハサミの穴に入れなくとも、軽く握るだけで切れる形状のものがあります。

便利な道具は、心理的にも物理的にも料理のハードルを下げてくれます。また、脳卒中による麻痺の場合は、麻痺の残る手で道具を使い続けるうちに脳自体が影響を受けて、麻痺の改善を期待できるケースもあります。生活を送っていく中で、料理がリハビリとしての機能も担ってくれるんですね。リウマチなどの不可逆性の疾患の場合は力を維持できたり、変形を防止することなど、道具を使うことで過剰な負担を軽減することが可能です。そして何より便利な道具で料理がはかどれば、料理を大切にしている方にとって、QOLの向上につながります。

ハンディキャップをカバーする便利な道具やアイデア

先に紹介した釘付きまな板のほかにも、インクルーシブで便利な道具はたくさんあります。ここではその一例を紹介します。

・縁に板がついたまな板

縁の板に食材を押し付けて、片手で調理できます。また、釘を食材に刺すのに抵抗のある方は、まな板に滑り止めのついたシリコン製のテープを巻くことで、それとまな板の間に食材を挟み込み固定することもできます。

・取っ手がL字型になった包丁

取っ手が刃の上部にあるので、手に力が入らなくても、体重をかければ食材を切ることができます。

・ペットボトルや瓶の蓋に関するオープナー

電動のものや、ごく弱い力で開けられるものなどいろいろな道具があります。

また、食材をしっかり固定しておかないと利用が困難なピーラーなどは、ピーラー自体を固定してしまい、食材側を動かすことで、片手が不自由、力が入らない方でも簡単に皮を剥けるものもあります。

ゆびさきトングで肉をめくる様子

万人におすすめの「ゆびさきトング」

たとえば重なった薄いお肉を一枚お箸でめくるというのは、かなり巧緻性が必要な動作ですが、「ゆびさきトング」を使えば、トングを握って離すだけで、指先でつかむような感覚で簡単にめくることができます。食材をほぐすのも、トングを握って開けば簡単です。独特の形状で手と一体感があり、先端が細いので弱い力でもしっかりつかめて、細かい動作もやりやすいですね。

手指の変形や麻痺などで力が入らないような人にとっては、お箸で食べ物をつまむことはできても、ほぐすなどの操作が難しい場合があります。「ゆびさきトング」はそのような方々の大きな力になってくれるのではないでしょうか。

また、障害のあるなしに関わらず、「ゆびさきトング」は衛生面からもおすすめです。菜箸や手で直接生肉を扱うと、うっかりそのまま別の食材に触れてしまうことがあると思いますが、生肉に使うトングを別に分けておけば食中毒などに対する安全性が上がります。鶏肉のカンピロバクターなどは、人によっては神経難病の原因にもなりますので、気を付けていただきたいと思います。

料理をサポートしている人

ハンディキャップを持つ方の自立性を尊重

障害を持つ方が料理をする際、ご家族などがサポートすることがあると思います。そのときに気を付けていただきたいのが、過剰なサポートとならないようにするということです。もちろん、危ないときはすぐ介入する必要がありますが、ついつい手伝いすぎてしまうと、障害を持つ人の役割を奪ってしまうことにもなってしまいます。実際に、周りの方の善意による手助けが、当人にとっては負担になっていることも少なくありません。

そのため、お互いに話し合ってどうしても難しいところはサポートし、それ以外は当人の自立性を尊重して見守るというようなかたちがよいと思います。また、もし、なんらかの形で生活に、僕のような作業療法士が関わっていれば、どのようなサポートをすればよいか相談してみてください。専門家の立場から、適切な方法を教えてくれるはずです。

自分の手指の状態にあった道具を探そう

今の世の中、百均などにも便利な道具がたくさんありますので、積極的に利用していただければと思います。道具選びで重要なのが、ご自身の手指の状態にフィットしたものを選ぶということです。この点に関して、もし近くにリハビリの職種の人、とくに作業療法士がいれば気軽に相談してみてください。

作業療法士に相談している様子

リハビリテーションというとマッサージや筋トレの人というイメージを抱いておられる方も多いのですが、リハビリテーションの中のとりわけ「作業療法」とは、その方の生活行為や人生における大事なものを達成することを目的とした支援ですので、用途に応じたご自身にふさわしいやり方や道具をいつでも紹介してくれると思います。

また、身近に作業療法士がいないという人は、最近はネットなどでも便利な道具の情報がたくさん出ていますので、調べてみてください。僕も普段から百均やネットショッピングにアンテナを張って、見つけた便利な道具をSNSで発信していますので、ぜひ見に来てくださいね。便利な道具をうまく利用して、みなさんが大好きな料理、生きがいとなりうる料理を長く続けていただけたらと思います。

竹林崇|作業療法士、大阪公立大学教授

執筆者プロフィール

竹林崇|作業療法士、大阪公立大学教授

医学博士。専門は脳卒中後の手の麻痺のリハビリテーションで、ロボット開発にも従事。手が不自由な人に役立つ情報を日々発信している。メディア等でも活躍中。
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